2016年上半期映画ベスト10

八月に片足突っ込んだような時期になってしまいましたが、2016年上半期映画ベスト10を雑感とともに紹介します。

 

▼2016年上半期映画ベスト10

 集計期間:2016/1/1-2016/6/30
 順不同

アノマリサ
海よりもまだ深く
キャロル
ザ・ウォーク
サマータイム
山河ノスタルジア
ブリッジ・オブ・スパイ
シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ
ズートピア
スポットライト/世紀の大スクープ

 

▼雑感 (若干ネタバレ有)

『アノマリサ』チャーリー・カウフマン、デューク・ジョンソン/アメリカ/90分

鬼才カウフマンによるストップモーションアニメ。すべての人が同じ顔・同じ声の男性に見えて(聞こえて)しまうマイケルが、久しぶりに「女性」に出会う。口説き落とすところから生々しいセックスシーンと、背筋も凍るあの瞬間の描写が素晴らしい。

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『海よりもまだ深く』是枝裕和/日本/117分)

阿部寛演じる主人公、離婚してもまだ夢を諦められず、お金があれば博打をやるどうしようもない奴で、だからこそ曲がった背筋を正すシーンが抜群に胸に響く。「こんなはずじゃなかった」でも「前を向いて生きていこう」という、何にもなれなかった私たちに向けたメッセージ。前作の『海街diary』に引き続き「アレ」映画でもある。

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『キャロル』(トッド・ヘインズ/アメリカ/118分)

テレーズのシスター・アリシアへの憧憬や、恋人・リチャードとの関係など、パトリシア・ハイスミスの原作から大胆にシーンを削りながらも、役者の巧さも手伝って雰囲気を損なうことなく、より一層キャロルとテレーズの二人に重点を置いたラブストーリーに。

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ザ・ウォークロバート・ゼメキス/アメリカ/123分)

助長になりがちな準備パートはポップでリズミカルに、綱渡りはこれでもかというほど執拗に。こんなに手汗、足汗(と言うのかしら)をかいたことはない。今は亡きワールド・トレード・センターには神々しい光が差している。

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サマータイム(カトリーヌ・コルシニ/フランス・ベルギー/105分)

舞台は1970年代フランス。失恋を機にパリへ上京した農家の娘デルフィーヌと、女性解放活動家キャロルの恋。田舎/都会の対比が面白い。パリでは中絶の合法化を始めとした「女性の権利」を求める運動が盛んになっている一方で、病に倒れた父の代わりに田舎に戻って農家を継ぐデルフィーヌが直面したのは農業組合という男社会。レズビアンに対する偏見もあり、農場を守るか、キャロルを選ぶかの間で揺れる感情の繊細な描写が光る良作。

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『山河ノスタルジア(柯賈樟/中国・日本・フランス/125分)

過去('99)現在('14)未来('25)三つの時代をそれぞれ異なるスクリーンサイズで切り取っている。とくに未来パート、素晴らしい!焦点を当てる人物は変わってゆくが、幕が閉じて思うのは「ひとりの女性の人生」。中国の急速な経済的変化のうねりの中で変わってしまうもの、変わらないもの。それにしても、対照的な真夏のオーストラリアと真冬の中国の風景を含めて、素晴らしい余韻を残すラストだった。

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ブリッジ・オブ・スパイスティーブン・スピルバーグ/アメリカ/142分)

これぞアメリカ映画! 『ターミナル』『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『プライベート・ライアン』快作を生み出してきたスピルバーグ監督とトム・ハンクスのタッグ第四弾。全体的にモノクロがかったような落ち着いたトーンの画面が印象的。

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シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ/アメリカ/147分)

あの総当たりシーン、そして殴り合い。最高。

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ズートピア(リッチ・ムーア、バイロン・ハワード/アメリカ/108分)

ニックに対するジュディの偏見、さらには「羊は悪者にはならない」という観客の偏見までをも利用した巧みなプロットに脱帽。難しいことを考えずとも、最高のバディ・ムービーでもある。この二人可愛いなあ。

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『スポットライト/世紀のスクープ』(トーマス・マッカーシー/アメリカ/128分)

もちろんカトリック教会のスキャンダルが物語の大きな軸として存在するんだけど、個人的には最高のお仕事映画だった。当たり前だが仕事の裏には、それぞれの足で稼ぐ取材だったり、膨大な資料の精査であったりという地道な作業がある。その丁寧な描き方にとてつもなく感動してしまった。

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The Playlistによるウディ・アレン映画ランキング

ウディ・アレン最新作"Cafe Society"のアメリカ公開を控えて、The Playlistがウディ・アレンの監督作47本のランキングを発表しました。


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The Best & The Rest: Every Woody Allen Film Ranked

47位 『僕のニューヨークライフ』(2003)“Anything Else”
46位 『ウディ・アレンの夢と犯罪』(2007)“Cassandra’s Dream” 
45位 『スコルピオンの恋まじない』(2001)“The Curse of the Jade Scorpion” 
44位 『さよなら、さよならハリウッド』(2002)“Hollywood Ending”
43位 『教授のおかしな妄想殺人』(2015)“Irrational Man”
42位 『セレブリティ』(1998)“Celebrity”
41位 『タロットカード殺人事件』 (2006)“Scoop”
40位 『サマー・ナイト』(1982)“A Midsummer Night’s Sex Comedy” 
39位 『ローマでアモーレ』(2012)“To Rome with Love” 
38位 『恋のロンドン狂騒曲』(2010)“You Will Meet A Tall Dark Stranger” 
37位 『メリンダとメリンダ』(2004) “Melinda and Melinda”
36位 『ニューヨーク・ストーリー』(1989) “New York Stories”
35位 『人生万歳!』(2009)“Whatever Works”
34位 『マジック・イン・ムーンライト』(2014)“Magic in the Moonlight”
33位 『アリス』(1990)“Alice”
32位 『地球は女で回ってる』(1997) “Deconstructing Harry”
31位 『セプテンバー』(1987)“September”
30位  “What’s Up, Tiger Lily?”(1966)
29位 『ウディ・アレンの影と霧』(1992)“Shadows and Fog”
28位 『私の中のもうひとりの私』(1988)“Another Woman”
27位 『おいしい生活』(2000)“Small Time Crooks”
26位 『誘惑のアフロディーテ』(1995) “Mighty Aphrodite”
25位 『世界中がアイ・ラヴ・ユー』(1996) “Everyone Says I Love You”
24位 『ラジオ・デイズ』(1987)“Radio Days”
23位 『マッチポイント』(2005)“Match Point”
22位  “Cafe Society” (2016)
21位 『ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう』(1972)“Everything You Always Wanted To Know About Sex* (*But Were Afraid To Ask)”
20位 『ミッドナイト・イン・パリ』(2011)“Midnight in Paris”
19位 『それでも恋するバルセロナ』(2008)“Vicky Cristina Barcelona”
18位 『ブルー・ジャスミン』(2013)“Blue Jasmine”
17位 『ウディ・アレンのバナナ』(1971)“Bananas”
16位 『カメレオンマン』(1983)“Zelig”
15位 『泥棒野郎』(1969)“Take the Money and Run”
14位 『マンハッタン殺人ミステリー』(1993)“Manhattan Murder Mystery”
13位 『カイロの紫のバラ』(1985)“The Purple Rose of Cairo”
12位 『スターダスト・メモリー』(1980)“Stardust Memories”
11位 『ブロードウェイのダニー・ローズ』 (1984)“Broadway Danny Rose”
10位 『スリーパー』(1973)“Sleeper”
9位 『ギター弾きの恋』(1999)Sweet and Lowdown”
8位 『ウディ・アレンの重罪と軽罪』(1989)“Crimes and Misdemeanors
7位 『インテリア』(1978)“Interiors”
6位 『ブロードウェイと銃弾』(1994)“Bullets Over Broadway”
5位 『ウディ・アレンの愛と死』(1975) “Love and Death”
4位 『夫たち、妻たち』(1992)“Husbands and Wives”
3位 『ハンナとその姉妹』(1986)“Hannah and Her Sisters”
2位 『マンハッタン』(1979)“Manhattan”
1位 『アニー・ホール』(1977)“Annie Hall”

さて新作の"Cafe Society"、順位は22位に留まりましたが、周囲のラインナップを見る限り良作揃いで期待に胸が膨らみます。
自分のお気に入りと照らし合わせるのも楽しいですよね。(私は13位の『カイロの紫のバラ』を見た瞬間に「ええええっ」と大声をあげました。)

 

アジズ・アンサリのトランプ批判記事をざっくりまとめてみた

今朝早くに、米コメディアンのアジズ・アンサリがこうツイートした。

 
バズりにバズって現時点で30,000RTを超えているこの記事をざっくりとまとめてみた。もし誤訳がありましたらご指摘くださいませ。

▼アジズ・アンサリとは(6/26 8:00追記)

アメリカ合衆国の俳優、コメディアン。ドラマ『マスター・オブ・ゼロ』では監督としても成功している。
彼は生まれも育ちもアメリカだが、両親はインド移民のイスラム教徒である。この背景は、記事の内容と関連してくるので一応追記を。

Netflixで観られるスタンダップコメディが面白いです。


▼記事の内容

(1/7)「Muslimであるというだけで、それなりの負担(や障害)がある」とアジズは述べている。「"Muslim"と聞いて人々の頭に浮かぶのは、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイでも、カリーム・アブドゥル=ジャバーでもなく、テロリストやニュース映像で見る悪党である。」


(2/7)「大統領候補ドナルド・トランプや、彼のような人々がヘイトスピーチを撒き散らしている今日、偏見は新たなレベルに達しており、その偏見は本能的で恐ろしく、人々の生活や仕事、祈りにさえも影響を与える。」

(3/7)友人であるイスラム教徒女性の言葉を引用している。「罪のない被害者よりも、馬鹿げた狂人(=銃撃犯)と共通する考えを持つと思われているようで気が滅入ります。銃撃犯が褐色の肌であるたびに、私はテロリストではないと説明しなければならないことにもうんざりしているのです。」

(4/7)アジズも彼女の友人の言葉に同意を示し、「他の人々のように悲しみと恐怖を感じると、自分自身に証明しなければならないという奇妙な感覚がある。」と述べている。

(5/7)さらに9.11以降、49もの銃乱射事件があったが、その半数以上は白人男性によって実行されたものであったことを述べ、テロリズムの危険性を減少させる一つの方法としての銃規制(=ミリタリーグレードの武器が、FBIの監視リスト上の暴力行為歴のある、精神的に不安定な人々の手に渡らないようにすること)を訴えている。

(6/7)「オーランドの襲撃事件よりはるかに前から、外国人嫌いの発言がトランプ氏のキャンペーンの中核たった。メキシコ人を『この国にドラッグを持ち込んだ強姦者』と呼んで大統領選を始めたような人なのだ。」

(7/7)「トランプ氏は、2001年9月11日にニュージャージーイスラム教徒たちが通りで喝采していたと、繰り返し発言している。(略)その日に、すべてのイスラム教徒が何をしていたかは分からないが、私の家族については話すことができる。私はニューヨーク大学で勉強をしており、世界貿易センタービルの近くに住んでいた。二つめの飛行機がビルに突入している音は、永遠に頭から離れないでしょう。(略)そこに喝采は決してなく、あるのは悲しみ、恐怖と不安だけだ。
トランプ氏のオーランドの襲撃への反応は、『祝福に感謝します。』というツイートから始まった。彼が襲撃を祝っている、まさにその人だったのだ。

 

 

『はじまりのうた』/別れの理由はまさに「音楽性の違い」?

この記事はネタバレを含みますので未見の方はご注意ください。

Are you ready for the last act?
To take a step you can't take back?
覚悟はあるの?最後の一歩よ
後戻りはできない
Keira Knightley - "A Step You Can’t Take Back"

これは、ジョン・カーニー監督作『はじまりのうた』の冒頭で、キーラ・ナイトレイ演じるグレタが歌っている曲である。さて、歌詞にある「覚悟」とは何かというと、地下鉄の線路を走ってくる電車に飛び込む「覚悟」である。


落ち目の音楽プロデューサー・ダン(マーク・ラファロ)は、家庭も上手くいっておらず酔っ払った地下鉄で自殺を考える。そんな時、ふらりと訪れた小さなバーでこの曲を歌うグレタに出会う。自らの境遇に共通点を感じたのだろうか、彼女の才能に惚れ込み声をかけるところから物語が始まっていく。


▼予告編

 

グレタがミュージシャンのデイヴ(アダム・レヴィーン)のコンサートに行くシーン。彼女が出ていってしまうことがどうしても腑に落ちず何度も見返した。

これに関して、監督インタビュー(*1)では以下のように言及されている。

"I think in the film Greta is more of a writer than a performer~"
「この映画の中で、グレタは歌手というよりは作曲家だと思う(後略)。」


もともと「自分(達)のための音楽」と言っていたグレタに対して、デイヴは「音楽は、みんなで共有するもの」との考えを持っている。つまり、監督の言うところの「作曲家」的な考え方をしているのがグレタ、「歌手」的な考え方をしているのがデイヴだろう。ベンチで再会するシーンでも、その考え方の違いから対立しているように思える。

そして、腑に落ちなかったコンサートのシーンだ。グレタは「自分達の曲」ではなく「みんなの曲」となった"Lost Star"がどれだけ人に愛されているかを知り、自らも新たな一歩を踏み出すために出ていったのではないだろうか。

 

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主演の二人を絶妙な距離感に留まらせるのは、前作『ONCE ダブリンの街角で』を思い出させる。今作の終盤シーンではダン、グレタともに何か言いたげな様子だが、なにも言わないまま別れる。キスシーンも撮影したが、カットされたとの噂だ。(Pictures: Keira Knightley and Mark Ruffalo Kissing on 'Can a Song Save Your Life?')この写真の服装を見る限りだと、前述した別れのシーンだよね。

個人的には、この二人が恋愛関係にならなくてよかったと思う。ものすごく絶妙なバランスのもとに成り立っていて、キスシーンが入ることによって話の内容が大きく変わってしまうと思うからだ。

『はじまりのうた』、サントラも素晴らしいので、未見の方がいたら是非観てほしい。

もともとFilmarksで書いていたレビューをブログに載せてみるかと気軽に書き始めたのだが、すごく長い記事になってしまった。

 

(*1)Interview: John Carney "Begin Again" - Blog - The Film Experience

"Tangerine"/ロサンゼルス、夕焼け色のクリスマス・イブ

クリスマスを題材にした映画といえば『素晴らしき哉、人生!』、『ラブ・アクチュアリー』、『めぐり逢えたら』など沢山あるけれど、変わり種というか、「こんなクリスマス映画もいいじゃない!」と思った一本が『タンジェリン』("Tangerine")。監督はショーン・ベイカー。プロデューサーにはデュプラス兄弟も名前を連ねている。


▼予告編


 

ロサンゼルスのクリスマス・イブ。サンタモニカ・ブルーバードに実在する「ドーナツ・タイム」店内から物語が始まる。トランスジェンダーセックスワーカーのシン・ディ(Kitana Kiki Rodriguez)は、同業の友人で歌手志望のアレクサンドラ(Mya Taylor)から彼氏が浮気していることを知り、浮気相手を探し回る。

浮気相手を見つけ出してこらしめようとするシン・ディ、夜にカフェでのコンサートを控えているアレクサンドラ、そしてアルメニア移民のタクシー運転手ラズミック(Karren Karagulian)、三人の人生が交差する一日を描いたコメディ・ドラマ。


予算を抑えるために全編iPhone5Sで撮影されているという。褐色の肌、金髪、夕焼け空、乾いた壁の色。ロサンゼルスの夕焼け空の色から付けられたというタイトル同様、映像も橙がかっているのが印象的だ。

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 音楽に関しても、一部を除いてVineSoundcloudで見つけた新進気鋭のインディーズアーティストを起用している。ベートーヴェンの「コリオラン序曲」に、徐々にドラムの音が重なってゆき、トラップミュージックに変わるところは最高の一言。

インタビュー(※1)で監督が、「ガソリンスタンドで洗車(中の車内)をワンテイクで撮ってみたかった。今までなかったのが不思議なくらいだ。」と答えているのですが、それであの洗車セックスシーンが生まれたと思うと感激してしまう。かなり直接的な下ネタシーンもあり苦手な人もいそうだけれど、どことなく哀愁を漂わせながら、力強くしなやかに生きている彼女たちの姿にひたすらに魅了されるのである。

 

Tangerine (2015) - IMDb

 

▼サウンドトラック

soundcloud.com

 

(※1)“We Didn’t Fictionalize Much”: Sean Baker on Tangerine | Filmmaker Magazine